森小路京かい道・レトロ「人形の辻」
人形店といえば、店内に並ぶひな人形や五月人形を連想しますが、9月に「人形の辻」を訪れると、その店頭には大きく「花火」の文字の入った旗がかかっていました。
「人形店なのになぜ花火?」と不思議に思いながら店内に入ると、そこには200~300種類の花火が整然と並んでいました。しかも1本1本、ばら売りです。花火といえば、何種類かを袋に入れたセット販売が一般的ですが、「人形の辻」では1本25円、30円、80円と、たくさんの花火から好きなものを必要なだけ選べます。お気に入りの花火や欲しい花火がきっと見つかると、近所の子どもたちや家族連れなど、店には客足が絶えません。
「いまどき、ばら売りは珍しいせいか、口コミで広まったようです。わざわざ車で新大阪や、枚方から買いに来られたお客様もいましたよ」と話してくれたのは、店主の辻祐蔵さんです。
なかでも一番人気は線香花火。「打ち上げ花火やちょっと変わりダネの花火を選ぶお客様も、なぜか必ず線香花火を入れてレジに持ってこられます」。
夏は花火が主役の店内ですが、1~3月の主役はひな人形、そのあとは五月人形が主役に躍り出ます。ひな人形の着物は日焼けしやすいため、メインの販売時期以外は店の奥にしまってあるとか。代わりに夏は、花火と並んで勇壮な武者人形をはじめ、兜をずらり。昔ながらのデザインから、シルバーや青のラインが入ったモダンなデザインまでそろえています。ひな人形も五月人形も、ケースに収まるコンパクトな大きさが人気です。
「人形の辻」が花火の販売を始めたのは50年ほど前のこと。ある年、名古屋で開催された人形の展示会で、有名な三河の花火が販売されていました。それを見かけて辻さんは、花火の販売を思い立ったのです。例年10月頃まで花火を販売しているのですが、「今年は暑いから11月頃まで売ろうかなあ」と茶目っ気たっぷりに話してくれました。